著者:若竹千佐子
発行:河出書房新社
小説『おらおらでひとりいぐも』は、東北弁の独言で始まります。
夫を喪い郊外の住宅で一人暮らしをする74歳の女性の物語です。
高齢女性の平凡な日常と頭の中に現れる回想や空想、時には妄想が延々と描かれています。
主人公の桃子さんは、いい男であり、いい夫であり、優しい夫の死を未だに受け入れられません。
伴侶を亡くした痛みを彼女は「喪うことの身もだえのするような悲しみ」と書いています。
愛する人を失う悲しさ、辛さ、今は亡き愛する人の声が聞こえない暮らしに未来の私を予感し、
私は胸が張り裂けそうな気持で読んでいました。
しかし、決して暗い話ではない。この本を読み終える頃には、生きる勇気が湧いてきます。
「おらおらでひとりでいぐも」というタイトルは
早くに亡くした妹を偲ぶ宮沢賢治の有名な詩の一節
『おらおらでひとり逝くも』からとったそうです。
この本は『おらおらで一人生きていく』という意を表しています。
著者の若竹千佐子さんは、岩手県に生まれ岩手大学教育学部を卒業。
国語の先生になりたくて何回も教員試験を受けるも叶わず失敗をします。
しかし自分はいつか小説を書くんだとの思いから、
62歳になって初めて書いた小説が『おらおらでひとりいぐも』です。
2018年に芥川賞を受賞。高齢化社会が進み、長いおひとり様人生になるかもしれません。
どうやって生きるかきっと勇気と希望をもてる1冊だと思います。
『あくあ通信』第52号(2020年冬)より
2005年1月創刊。
今年で16年目を迎える季刊広報紙「あくあ通信」の社長コラムに、
無類の本好きの私は、毎回おすすめの本を一冊取り上げ、その感想を書いています。
なかなか日々の業務を理由に進ぬブログの筆を、
スタッフの発案で、最新号とその前のコラムを、このブログに掲載したところ、
これをきっかけに当社のホームページをご覧くださる方が増えたとの報告がありました。
気をよくしたスタッフが、以前の未掲載のコラムもと言いだし、
お恥ずかしい限りですが、執筆時とのタイムラグもあるかとは思いますが
これから少しずつ掲載していきますので、よろしくお願いします。